鏡の重さのおかげで、底なし沼のような、深さが分からない暗い湖の中をぐんぐんと落ちていくのが分かった。
 
 徐々に底に近づくたび、冷たくなる水を切る。


 僕は暫くギュッと瞑っていた目を、ふと開けてみた。
 ぼんやりと、鏡の中の瞬が、必死な顔をして自分の名前を呼んでいるのが分かった。


 
 そのうち、意識が朦朧としてきて、いつの間にか鏡を手放していることに気づいた。
 
 けれども、もう鏡なしでも浮かんでこれないくらい、深く沈んでいることが、かろうじて分かった。





 ――瞬の声だけが、湖の中にこだましていた。




 
 必死に、僕の名前を呼ぶ、声。

 それは水の中でも濁ることはなく、寧ろ元から瑞々しい声に拍車をかけて、水の中でもよく響き渡る、透き通っていて、とても綺麗な声だった。




 そんな瞬の声と、水の中に入ってからずっと感じていた、瞬の欠片のような、瞬の成分といっては少し可笑しいかもしれないけれど、そんなものが僕を優しく包み込んで、息ができないことなんかは、とうの昔に忘れたかのように、今はただ、とても居心地がよくて、深い眠りに誘われているようだった。


 
 
 僕は、最後の力を振り絞って、鏡の成分の結合を解くようにイメージを与え、呪力を放った。



 
 
 
 …瞬、瞬……。



 
 


 ああ、これで良かったんだ…もう、終わりにしようじゃないか……。








 最後にふと、右手に何かの温もりを感じた気がしたけれど、僕の意識はそこで途絶えた…